AAM(空対空ミサイル)を回避する

Twitterの質問でも、非常に多いのは「武器弾薬」に関する事です。

やはり、武器等に関することは、余り知られていない事も多く、実際に使用してみないと分からないところが多く、興味は尽きないのかもしれませんね。

今回は、その中でも特に多い、「AAM(空対空ミサイル)の回避」についてお話します。


AAM(空対空ミサイル)とは

AAM(Air to Air Missile)は、その名の通り、空対空ミサイルのことです。

空対空という呼び名は、「空を飛んでいるものから発射され、空を飛んでいるものを撃墜する」という所から来ています。

通常、発射する側の事を「母機」または「発射母機」と呼びますが、母機から発射されたミサイルは、何らかの誘導方式で飛行して、最終的な目標に到達します。

色々な誘導方式

単にミサイルという分類でお話すると、いくつもの方式があります。

  • 自立航法型:自分自身で相手と自分との相対位置を計算または測定し飛行する方法
  • レーダ型:自分自身もしくは別の所から、目標に対してレーダーを照射し、その反射波をたどって飛行する方法
  • 赤外線型:目標が発生させる熱源を追尾して飛行する方法
  • 画像認識型:目標の形状を記憶し、形状によって他との識別を図りつつ飛行する方法

この中で、一般的な空対空ミサイルに使用されている誘導方式は、「レーダー型」と「赤外線型」です。

自立航法は、相手の位置が固定されている必要があり、目標が移動すると、その座標が変化するため役に立ちません。

画像型は、艦対艦ミサイルや地対艦ミサイル等で実績はありますが、相手の形状を遠方から識別できることと、目標を全方向から見た形状を記憶させる必要があり、飛行機の場合は難しいと言えます。

記載していませんが、レーザー誘導方式もある種の自立航法型といえますが、目標に対して、継続的にレーザー光線を照射し、相対位置を計算させる必要があり、精度は高いものの、今のところ空対空では実用化されていません。

レーダー誘導方式

レーダーの反射をミサイルが追尾する方法です。

レーダーを目標に当てる方法は、2種類があり、それぞれ名称が異なります。

アクティブ方式:ミサイル自身がレーダーを照射する方法

  • 一般的に「打ちっぱなしミサイル」と言われますが、まさにその通りです。
  • ミサイル自身がレーダーを照射しますので、発射されるまでの初期誘導をミサイルに伝達し、いざ発射されてしまえば、母機は安全な場所へ離脱が可能です。
  • しかし、遠方から発射させるためには、強力なレーダー照射能力が必要で、さらに帰ってくる電波を確実に捉えるため、レーダーそのものの直径が大きくなるという欠点があります。
  • レーダーが大きいと、それだけミサイルの直径は大きくなりますので、空気抵抗は増加します。また、搭載する電子機器類も増加、それを駆動させる電池なども大きくなるため、一般的には大型ミサイルになりやすいと言えます。

セミ・アクティブ方式:発射母機がレーダーを照射する方法

  • レーダーの照射は、発射母機にまかせて、その反射だけを受信して飛行する方法です。
  • 強力な母機からのレーダー反射になりますので、相手が機動してもロックが外れにくいというメリットがあります。
  • ミサイル自身は、「送信装置」が不要で、「受信装置」のみとなりますので、小型化しやすく、軽量なものを作ることができます。
  • しかし、ミサイルが目標に到達するまで、母機はレーダーを照射し続けることが必要であり、母機も危険にさらされる事になります。

レーダー反射を利用するメリットとデメリット

もう一つの赤外線方式よりも、遠方から有効な射撃ができる事が上げられます。

特に、セミ・アクティブ方式では発射母機からの強いレーダー照射を受けることが可能なため、反射する電波も出力が大きくなり、誘導しやすいことが上げられます。

しかし、レーダーには決定的なデメリットがあります。

通常、戦闘機等に利用されている伝搬は「パルス波」と呼ばれる、小さな矩形の電波を利用しています。(便宜的に矩形と表現します。)

パルス波は、気象レーダー等に使用される正弦波とは異なり、分解能や一点に対する出力が大きく、また、個別に走査することで、1つのレーダーアンテナで複数の目標を識別することができます。(フェイズド・アレイ・レーダー等)

しかし、「良く写る=地上も写る」のです。

そこで、戦闘機のレーダースコープ上に地上が写り込んでしまわないために、「速度0の物体(つまり、自機の速度と同じ速度で接近する物体)は除外する。」という機能がついており、これによって地上や海上が写らないようになっています。

もし、相手機が、母機に対して90度直角に飛行するとどうなるでしょうか。

母機からすると、目標機は自分自身(母機)の速度で近づくはずです。つまり、これは地上の反射波と同じになり、写らなくなることがあるのです。

赤外線誘導方式

レーダーの代わりに、目標機が発生させる赤外線を追尾する方法です。

通常航空機は、燃料を燃焼させて飛行していますので、燃焼に伴う熱が発生しています。

この熱源は、ケロシンと呼ばれるジェット燃料を燃やすことにより発生していますので、スペクトル(熱源の組成と思って下さい。)は、どの戦闘機も似た物になります。

これを追尾するように、赤外線ミサイルには熱源を探知するセンサー(一般的には「シーカー」と言います。)が付いています。

構造としては非常にシンプルで、小型軽量化しやすいミサイルですが、致命的な欠点があります。

「発射できる距離が非常に短い。」という点です。

これは、熱源、つまりジェットエンジンの熱や排気の熱というのは、常に周りの空気等によって冷やされています。

つまり、距離があると空気中に熱が溶け込んでしまい、熱源として利用出来ないことになります。

このため、赤外線ミサイルはレーダーミサイルよりも、有効射程距離が非常に短くなっています。

レーダー、赤外線ミサイルの共通する事項

反射を受信するアンテナ、赤外線を感知するセンサー、どちらもミサイル最前方に設置する必要があります。

ミサイルは前方に飛行しますので当然ですが、言い換えると、目標が正面よりずれた場合に受信や感知が外れると困ります。

そのため、これらのミサイルの「目」にあたる部分には、「ジンバル」と呼ばれる、自由に動く雲台のような機器が装着されています。

このジンバルによって、目は自由に相手をおうことができるのですが、ジンバルには、「ジンバル・リミット」と呼ばれる制限があるのが普通で、120度とか180度とかの制限角度がどうしても付いてしまいます。

また、高速で飛行する戦闘機に当てるわけですから、ミサイル自身が推力を持つことは必須です。このため、推進薬と呼ばれる火薬がミサイル後方には積まれており、これを燃焼させて飛行しています。

ミサイルは、「飛行する物体」ですので、小さな翼によって、飛行方向を制御していますが、やはり航空機と同じく、旋回時にはG(遠心力)がかかります。

戦闘機に当てるためですから、戦闘機よりも小さく旋回する必要があり、その最大Gは12Gとか15G以上とか言われています。

回避方法を原理から考えてみる

ミサイルの種類は何か?

まず、何よりも大切なのは、「どんな誘導方式のミサイルが来ているのか?」です。

これは、困難を極めます。ただ、発射母機からのミサイル発射の脅威を感知できたならば、その時の相対距離である程度は判別が可能です。

ただ、遠ければレーダーですが、近くなると、「レーダーも赤外線も利用可能」となりますので判別することは極めて困難です。

レーダーミサイルなら

まずは、アクティブだろうが、セミ・アクティブだろうが原則は同じで、「反射波生成の元となる、レーダー照射を受けない。」ことが大事です。

簡単に言うと、「ロックオンされている状態を外す」事になりますが、レーダーの原則から次のような方法が考えられます。

  • 相手機よりも高度を下げる:地上反射波を大きくし、反射波を小さくさせる
  • 相手機に対して、90度方向で飛行する:一般に「ビーム機動」と言いますが、地上反射波に紛れ込もうとする方法です。
  • チャフ等の欺瞞を使用する:チャフは動きませんが機体よりも大きな反射面積(RCSと言います。)を持つことによって、ロックオンをチャフに飛ばせる可能性があります。
  • 急激に高度を変更する:母機のレーダジンバルの外に出る方法ですが、距離がある場合はムダに終わる可能性があります。
  • 昨今の戦闘機には標準化されつつある、電波の反射を抑える外板や塗料、形状も効果があります。(一般的にいう、ステルス性能の一部)

赤外線ミサイルなら

発生する熱源を追尾してきますので、原則としては「熱源を最小限にする。」事になります。

  • エンジン推力を絞る:熱源のほとんどはエンジンの燃焼ですから、推力を絞ればかなり熱源は小さくなります。ただし、自機のエネルギーも失います。
  • フレアーとの欺瞞を使用する:フレアーは小さな花火のようなもので、発生させる熱源のスペクトルは、ジェットエンジンのそれと似ています。これによりミサイルのシーカーをフレアーに飛ばせる可能性があります。
  • 時々、「太陽に向かって飛行する」と言われる方がいますが、現在のシーカーの識別能力はすさまじく、太陽とエンジンの熱源スペクトルの識別は十分に可能ですので、恐らく効果はありません。
  • これも、「熱源ステルス」という概念があり、排気温度下げたり、外側からノズルが直接見えないようにしたりという設計が行われています。

共通事項

相反するものがありますが、あえてそのまま書いてみます。

  • 相手より、高い高度を飛行する:これによってミサイルは上昇を余儀なくされますので、ミサイルの飛翔距離を短くすることができます。
  • 相手より、低い高度を飛行する:レーダーミサイルの場合は、地上反射波をうけますので、誤ロックオンされる可能性が高くなります。
  • 相手と反対方向に飛行する:まさかwと思うかもしれませんが、相手の発射距離が、射程距離ギリギリの場合は、これで回避できます。
  • 山陰等の遮蔽物を利用する:高度が低い場合は利用出来ます。

等がありますが、相反する事項も有るとおり、ミサイルの種類や自機の飛行高度等も考慮して決定することが大切になってきます。

回避できるのか?

大変申し訳ないとは思うのですが、自分自身がミサイル・エキスパート課程を修了して感じることをそのまま書くと、「やってみないと分からない。」です。

ミサイルの技術はどんどん進歩しており、すでに個々に書いた内容は克服されているものが有るかもしれません。

本当に本音で書くと、「撃たれたしまったミサイルを回避するのは無理かな。」です。ゲーム等では回避できるかもしれませんが、実機はかなり異なります。

例えば、RWR(Radar Warning Receiver:レーダー警戒装置)の警報は、完璧な警報をするかというとそうではありません。

極端な話、飛んでくるミサイルを「目視」したほうが早いかもとさえ思います。

なので、現在のミサイルを使用した空中戦のベースは以下のように考えられています。

「まず、撃たれないこと。または、撃てない状況を作り出すこと。」

一度、発射母機から放たれたミサイルは、音速の3~4倍と言う速度で飛行してきます。

時速にして、3500km/h以上の速度で飛行する物体から逃れるのは、簡単な事ではないのです。

個々の技術よりも、戦闘に至るまでの戦略に全てがあると思っています。


ちょっと内容的には「つまらない」かもしれませんw

でも、それほどミサイル技術は進歩しており、「撃たれたら終わり」と思って良いレベルなのです。

「操縦でなんとかなるのか?」

この疑問は最後まで私にとっての課題でもありますね。(^^ゞ

1件のコメント

  1. 大変興味深い説明ありがとうございます!!
    航空専門学校(整備士学科)を卒業して、民間機ではありますが航空機の製造を行っていますので、航空機内の分野は違えど気になってよく調べたりしていました。
    ヒートシーカーの対策で熱源を縮小するとありましたが
    ひょっとするとF22ラプターの推力偏向の機構も機動力の増加以外に同じような効果を期待されてるのかなと、また1つ疑問も浮かんだりして楽しく読ませていただきました!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です