ネットに旅客機の着陸はドシンなのかソフトなのかという記事が出ております。
旅客機の着陸時「ソフト」と「ドシン」はどっちが正解!?(ウェザーニュース) – Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180506-00003381-weather-soci @YahooNewsTopics
この話題は割と頻繁に繰り返されているみたいです。
空飛ぶたぬきとしては、どちらが正解とは言いにくいのですが、ちょこっと考えを書いてみます。
そもそも着陸とは
簡単に言えば、「空を飛んでいる航空機を地上に降ろす一連の操作」です。
空を飛んでいる航空機(今回は飛行機に限らせていただきます。)は、浮くための力(揚力)を翼によって得ている関係から、ある一定の速度以下では飛行出来ません。
つまり、着陸の際の速度は、「空に浮くことができるギリギリの速度」ということになります。
もちろん、もっと速い速度で地上に降りることも出来ます。
しかし、着陸後の減速や、そのために必要な地上滑走距離、タイヤやブレーキの摩耗、さらには安全性も考えると、高速での着陸は得策ではありません。
飛行機を操縦するパイロットは、飛行出来るギリギリの速度で、かつ安全を保持できる速度で着陸を行っています。
着陸の原理
通常、飛行機が飛行することが出来る最小速度は、失速速度Vsと言われています。
正確には、失速速度では失速するため、それより僅かに大きい速度です。
この速度を、できる限り小さくするために、フラップ等の高揚力装置(翼自身が発生させる浮くための力を増大させる装置)を使用しています。
ここでは、着陸の一連の操作について3つに分けて書いてみましょう。
なお、速度や分割については機種により違いがありますので、概ねの一般論としてご覧下さい。
最終進入
最終進入(Final Approach)とは、着陸の為に滑走路の延長線上を飛行することを言います。
機種によって違いはありますが、一般的には失速速度の1.3倍(1.3Vs)の速度になります。
失速速度が基準ですので、機体重量や重心位置によって変化します。
この最終進入速度(Final Approach Airspeed)で、滑走路末端(Threshold)まで進入を行います。
滑走路末端以降
もちろん、そのままでも接地(車輪を地面に付ける)することは可能なのですが、前述の理由から、さらに速度少なくしようとします。
具体的には・・
- 機首をさらに上げて、減速させる。
- 機首上げによる上昇をさせないために、出力を絞る。
- 降下する角度(降下角/進入角)は一定(一般には2.5度)
これらが、滑走路末端通過後に行われる操作ですが、このままですと降下角2.5度のまま車輪が付くことになります。
そこで、パイロットは接地の直前(対地高度で数十センチ単位)にさらに降下角を小さくしようと操作を行います。
接地直前
車輪が地面に着く直前に、降下角を2.5度よりさらに少なくする事によって、地面に接触するショックを小さくする操作を行います。
一般的に、接地時の速度は失速速度の1.1倍(1.1Vs)と言われていますが、それまでの進入は1.3Vsですので、減速させる必要があります。
このため、接地直前にはさらに機首を上げる、「フレア/フレアアウト」という操作が必要です。
先ほどの「滑走路末端以降」にもありますが、機首を上げると高度が上がるのでは?と思われる方も多いかもしれません。
しかし、実際は「バックサイド」と呼ばれる領域で飛行しているため、機首上げは速度が減少する操作となります。
- フロントサイド(通常、飛行機が飛行している速度)
- 機首の上下:高度の変化
- 出力の増減:速度の変化
- バックサイド(着陸等の低速領域)
- 機首の上下:速度の変化
- 出力の増減:高度の変化
この接地直前の機首上げ操作によって、降下角が限りなく0度に近づきながら接地となります。
簡単に言えば、着陸とは
「(速度はさておき)降下角をできる限り小さくして車輪を地面に付ける」
という一連の操作と言うことになります。
接地のショック
ここまで書くと、すでにおわかりとは思います。
ドスン!もフワッも、要は降下角の問題なのです。
- 最終進入である、降下角2.5度のまま接地すれば「ドスン!」
- 降下角を限りなく0度に近づけることができれば「フワッ」
ただ、フワッと降りるためには、「いつ車輪が地面に接触するか?」という感覚を身につけていないと出来ません。
大型旅客機には電波高度計という便利なものもありますが、一般に電波高度計のセンサーは主車輪についている訳ではなく、前車輪の格納ボックス付近にあります。
このため、電波高度計はその航空機が接地した瞬間の姿勢(機首上げ姿勢)の時に0ftを示すように設計されていますので、「車輪が付く」という高度は、電波高度計でも測ることはできます。
しかし、機体重量や重心位置等によって進入速度が変化するため、やはり最後はパイロットの感覚が大事になってくるというものです。
※ 失速速度が変化すると、進入時の1.3Vsも変化し、その際の着陸進入姿勢も変化する。
色気
空飛ぶたぬきは操縦教員(飛行機の操縦教育ができる先生)をしております。
何を隠そう、飛行機の着陸を教えるときは「ドスン!」と着陸するように教えています。
これは、飛行機の操縦練習を行っている間は、「機体の大きさ感覚」というものが育っていないからです。
操縦練習を始めて、着陸も50回を過ぎる辺りから、「フワッ」と降ろそうとする色気が出てくる学生さんがおります、私はそこで叱ります。「色気を出すな!」と。
機体の大きさ感覚、つまり「いつ車輪が接地するか」という感覚は、完全に体得することは難しい物だと考えているからです。
飛行機の設計において、沈降速度(沈下率)に対する安全係数が決められていますが、これは前述の降下角2.5度で接地した場合でも、機体を損傷することなく着陸ができるのです。
つまり、最後のフレアはなくても機体を破壊するようなことはないのです。
ちなみに、久しぶりのフライトでは、私もドスン!と着陸させます(^^ゞ
意外に思われるかもですが・・・
飛行機のマニュアルには、接地の方法について記載されているものは、まずありません。
最終進入速度や接地速度についての規定はあっても、ドスン!とフワッを分ける「接地時の降下角」について記載はないのです。
つまり、どちらでもよい。とメーカーは考えています。
航空機を運航している、航空会社や航空機使用事業会社等の規定にも、接地時のドスン!、フワッは記載がありません。
なぜでしょうか?
これは、「フワッと着陸させようとするがあまり、接地時の低速限界である1.1Vsを切る恐れ」を懸念しているためだと、空飛ぶたぬきは想像しています。
1.0Vsは失速速度ですから、そのときには機体は失速しますので、フレアを無理に支えすぎて失速に至ることは危険操作となります。(航空法で失速を伴う飛行は違法なのです。)
降下角の記載も、最終進入については記載がありますが、接地時についてはありません。
つまり、最後は「パイロット(機長)判断」ということですね。
使用される機体や条件に応じて
エアライン等のお客様を乗せる飛行機は、やはりフワッが良いと思います。
それだけで、機内のお客様が気持ちよく過ごせるわけですから。
操縦練習を行っている飛行機であれば、自らの感覚が育つまではドスン!で良いと思っています。
天気が悪くて、地上視程が低いときなどは、パイロットから見える地上もはっきりしません。
そんな時は、(よくわからないままフレアーするより)ドスン!で良いと。
戦闘機はあまりフレアーしませんね・・・F-15は割とそのまま接地ですが、最後の地面効果をおさえるために結果としてフレアーっぽくなりましたが。
艦上戦闘機のF-4は降下角2.5度のままドスン!と降りるように指導されますね。
つまりは、「機種や条件によって、どっちでも良い」というのが結論でしょうか。
どっちでも良いという、ありきたりな結論ですみません。
みなさんとしては、「白黒付けて欲しかった」かなーと思いつつ。
でも、やはり大事なのは、
- 安全を第一に考えること
- 「航空機を利用する人」が快適に過ごせること。
この2点につきるのではないかと思っています。
※ 降下角や速度についての記載内容は一例です。
- 機体重量、機体重心位置
- 着陸時の航空機形態
- 気温、空気密度、風向風速等の気象条件
等の諸条件によって、また航空機製造メーカーの推奨値があるため、一例としてご理解下さい。