管制通信を聞いていると、「Squawk xxxx」や「Set Squawk xxxx」という4桁の数字を聞くことが出来ます。
我々パイロットの中では、「スコーク」や「コード」、「DBC」等の言葉で表現していますが、今回はこのスコークについてのお話です。
スコークは何のためにある
スコークは、航空管制用トランスポンダーと呼ばれる機上機材にセットする4桁のコードです。
トランスポンダーは何をしているかというと、
- 地上管制用レーダーやACAS(Airborne Collision Avoidance System:航空機衝突防止装置)からの質問信号を受信する
- 1の質問信号に対して、航空機固有または飛行方式に関するコードを送信する
- 送信するデータは、4桁コード、高度情報、航空機固有番号等(コードによって一部異なる。)
と言う仕事を自動的に行っています。
何に使うの
簡単に言うと、「航空機の識別」です。
航空管制用レーダーは、方位と距離を測定することはできますが、その写っている物体を識別する能力はありません。こういったレーダーを1次レーダーと言います。
このため、レーダー電波の発射に合わせて、トランスポンダー質問信号を送信して、その受信データをもとに、航空機の情報を得るようになっています。
このシステムを搭載しているレーダーは2次レーダーとよばれています。
識別の一般的な順序は、
- 地上管制用レーダーで機影を補足する(1次レーダーと言います。)
- ATCトランスポンダー質問信号を送信する。
- ATCトランスポンダー応答信号を受信して、航空機固有番号と高度情報を取得する。
- 管制無線通信で、当該機の高度情報を得る。
- 3と4の数値が一致している事を確認する。
- 管制無線通信のコールサインより、当該機影に対してコールサインを入力する。
- 引き続きレーダーによるモニターを継続する。
このような流れになっています。
言い換えると、「レーダーによる識別はコールサインが分からない。」ので、「トランスポンダーの高度情報や識別符号によって整合を確認」して、レーダー上の機影を確定する。
という事になります。
コードは4桁
4桁です。
これは、ATCトランスポンダーの仕様で、0から7までの数字が4桁使用されていることに依存します。
言い換えると、0000から7777までの組み合わせを使用しており、数字によっては特別なコードとしてあらかじめ決められているものもあります。
例えば、
- 7700:緊急状態(エマージェンシー)
- 7600:無線機故障(NORDO:No Radioともいいます。)
- 7500:不当な妨害を受けている(ハイジャックなど)
- 1200:有視界飛行方式(VFR)で、10,000ft未満を飛行する場合
- 1400:有視界飛行方式で、10,000ft以上を飛行する場合
- その他いろいろw
と、細かく決まっており、当該飛行を行っていない航空機がそのコードを使用することは厳に慎むようになっています。
と、ここで映画がつまらなくなるお話をw
- ハイジャックの映画等ありますが、犯人が無線機を破壊したり、パイロットをコクピットから追い出して、地上との交信を出来なくするシーンがあります。
- 地上からすると、「無線交信が無いけど、何が起きたんだ?」となります。
- でも、実際はトランスポンダーがありますので、「7500」をセットすることにより、何も言わなくても「不当妨害を受けている」という事を知らせることが出来るのです。
モードとは
ATCトランスポンダーには、その内部にモードと呼ばれる、信号区分があります。
モード1とモード2は、軍用機に使用されているもので内容については秘密になっています。
モード3は、もともと軍用でしたが、民間に開放されて利用されています。皆さんが管制無線で聞くことが出来るのは、このモード3のコードになります。
モード3にはさらに種類があります。
- モード3/A:4桁コードを送信します。
- モード3/C:4桁コードと当該機の高度情報を送信します。
- モード3/S:3/cにさらに航空機固有識別を付して送信します。
現在の日本では、モード3/Cを搭載して飛行することが義務化されています。また、エアライン機のほとんどは、モード3/Sを搭載し、地上管制やACAS等にも利用されています。
これによく似た物として、IFF( Identification Friend or Foe:敵味方識別装置)と言うものがありますが、これも基本原理は同じですが、内部にセットするコードは秘密になっています。
スコークはどのようにアサインされる
有視界飛行方式により飛行する航空機の場合
- 有視界飛行方式で飛行するような小型航空機は、あらかじめ地上での移動開始まえにコードをセットします。
- この場合は、有視界飛行方式による10,000ft未満の飛行になりますので、「1200」と決まっています。
- パイロットは、地上滑走を開始する前にトランスポンダーに1200をセットして、地上滑走の許可を受ける事になります。
計器飛行方式(IFR)により飛行する航空機の場合
- 通常、地上滑走の許可を受ける前に、「ATCクリアランス」と呼ばれる、計器飛行方式で飛行するためのルートについての管制許可を取得します。
- この際の無線通信の概ね最後の方に、「Squawk xxxx」とアサインされます。
- パイロットは無線通信の内容を復唱(Read Back)して、間違いが無ければトランスポンダーにセットします。
その他のコード
- 例えば、緊急状態の7700は、まさに緊急状態になれば、パイロットが任意にセットできます。
- 無線機故障(7600)やハイジャック(7500)なども同様です。
- 言い換えれば、「無線を使用しないでも、ハイジャックなどの状況を管制機関に通報」することが出来ます。
数字がかぶることは?
かぶることはあるかと思っています。
実際にかぶっている状況というのは聞いたことがないのですが、ICAO(国際民間航空機関)加盟国では標準とされる方式ですので、世界中でこの4桁で足りるとは思えません。
ただ、このコードはレーダーによる識別に利用されているということは、レーダーの覆域を出てしまえば、同じコードでも識別に混乱をきたさないことになります。
実際、コードの細部として、「52xx」や「56xx」などは、ターミナルレーダー管制所(コールサインで、「レーダー」や「アプローチ」、「デパーチャー」等)で使用されていますので、空港の数からしても、どこかで同じコードで飛行している航空機が有るような気がします。
ちなみに、ACC(管制区管制所)の場合は、「22xx」、「24xx」、「33xx」、「34xx」です。
あらかじめ管制機関ごとに使用するコードが配分されているんですね。
コード使用上の注意
トランスポンダーの使用している周波数は、全て同じです。機種やレーダー毎に異なる周波数を使用していません。
このため、電波の干渉を避けるために、次のようなルールがあります。
- 離陸の直前に「ON」
- 着陸後は速やかに「OFF」
ただし、最近は3/S搭載のものが多くなっており、その場合は地上滑走における識別を容易にするために、出発(プッシュバック)から「ON」にしていることもあります。
さて、いかがでしたでしょうか。
上空を飛行している航空機は、「常に4桁の数字を背負いつつ」飛行している。言い換えると、「いつも誰かに見られている。」わけです。
なんか嫌な気もしますが、このシステムによって、錯綜するような混雑する空港でも、確実な管制指示と他の航空機のセパレーション(間隔)を得ることができ、航空交通の安全に貢献しているんですよ。
余談ですが・・・
F-15Jをはじめとする戦闘機の場合は、緊急脱出(Ejection)を行うと、自動的に「7700」を送信する用になっています。
無線で緊急状態を宣言するいとまが無くても、機体がパイロットの代わりに宣言し、その後のパイロット救助に一役買っているんです。
※ コードについては、改正等が生じるため、記載と合致しない場合があります。
あ、ちなみに「スコーク」という言葉の語源なのですが、「オウムの鳴き声から来ていると言われています(●´-`●)」