航空機のうち、飛行船以外は翼による揚力によって空中に浮揚します。
ここで、「あれ?ヘリコプターは?」と思われる方もいらっしゃるかもですが、ヘリコプターも同様です。(ヘリコプターの上で回転しているローターとよばれるパーツの断面は、翼のそれと変わりありません。)
翼は、前方から流れてくる空気流によって、揚力(Lift)と抗力(Drag)を発生します。
今回は、翼と空気流の関係についてのお話です。
迎え角とは
迎え角(AOA:Angle Of Attack)は、翼と空気流とで構成される角度のことを言います。
空気の流れは分かるとして、翼のどこを基準にしているかというと、翼の前縁と後縁を結んだ線(翼弦線といいます。)を基準にしています。

この翼弦線と空気流のなす角度が、迎え角です。
迎え角0度
迎え角が0度だと、揚力が発生しないように感じるかもしれませんが、実際は翼の形(翼型といいます。)が揚力を発生させる形状となっているために、迎え角0度=揚力0とはなりません。
※ 翼型によっては、迎え角0度でマイナスの揚力(下方向)が発生するものも有ったりします。
通常、機体速度が同じ(相対的に向かってくる気流の速度が同じ。)場合は、迎え角を大きくすればするほど、大きな揚力が発生します。(抗力も大きくなりますw)
言い換えると、航空機が低速で飛行する場合は、迎え角を大きくとれば飛行できると言うことになります。
機体の軸と迎え角
機体の軸と書きましたが、ここでは単純に機体の水平度合いとしてお話をします。
機体の軸は、迎え角と同一かというと必ずしもそうではありません。
通常、巡航状態でいる航空機が、常に前や後ろに傾いている状態というのは、乗客や貨物に対して決して良い環境とは言えません。
そのため、一般的な旅客機の場合は、「巡航状態の際に、機体が水平になる。」ように設計されています。
この時の翼の迎え角が、機体の重量を支えるだけの揚力を発生させることができる角度になるように、機体に取り付けられています。
ただ、この取付角度だけでは航空機の速度や重量変化に対応できないため、速度や重量等によって、迎え角を変える(航空機のピッチ:機首の上げ下げ)ことにより対応しています。
航空祭等で見ることが出来ますが、高速な航空機ほど機首は下げ気味に、低速な航空機ほど機首を上げ気味に飛行しているのはこのためです。(同機種で比較した場合)
実際の運航では
ただ、航空機が運用される条件というのは各種あります。
例えば、お客さんが沢山乗っているときや、逆に少ないとき、遠距離を飛行するために燃料を沢山搭載している場合などもあるわけです。
重量が重いほど、必要とされる揚力は大きくなりますので
- 航空機の巡航速度をより速くして、同じ迎え角でも必要な揚力を得る。
- 速度は同じでも、迎え角を大きくして、必要な揚力を得る。
という上記いずれかの操作を行う必要がありますが、巡航速度を大きくすることはそのまま燃費に反映されますので、あまり得策ではありません。
そういった意味から、常に「最適な重量」で飛行することも、機体を水平にして巡航するには必要な事になります。
でも厳密に言うと、どうしても燃料変化がありますので、巡航間でも微妙に機体のピッチを上下に変化させています。
高度を上手に利用することもある
離陸直後の航空機は、燃料を沢山搭載しているため、非常に重い事になりますが、飛行を続けることによって燃料を消費しますので、どんどん軽くなってきます。
機体重量が軽くなってくると、同じ姿勢では揚力の方が大きくなりますので、それまで水平に飛行できていた機体姿勢を維持していても、高度が勝手に上がっていくことになります。
しかし、高度が上がるにつれて空気の密度が低くなりますので、発生する揚力は減少していき、やがて上昇は止まります。
これを上手に利用して、機体が重いときは低い高度で飛行し、軽くなるに従って高度を上げて飛行する運航方法があり、国際線等では標準の巡航方法として利用されています。
※ Step up Climb と言います。
失速と迎え角
一般に迎え角を大きくすればするほど揚力が大きくなると書きましたが、現実には限界があります。
迎え角を大きくすればするほど、翼の上面を流れる空気流は、翼表面を流れることが困難になり、やがて剥がれてしまします。
揚力の発生原理についてはここでは省略いたしますが、空気流が剥がれる(剥離すると言います。)と発生する揚力が急激に減少します。
この揚力が急激に減少するときの角度を「臨界迎え角」と呼んでいます。
この臨界迎え角というのは、言い換えると「機首を上げることができる限界」とも言えます。
そして、急激に揚力が減少するということは、機体重量を支えることが出来なくなることになり、これにより航空機が姿勢を維持できなくなる現象を「失速」と呼んでいます。
厳密に言うと、翼単体で考えた場合(こういった考え方を二次元翼といいます。)、機体の重量は関係ありませんので、単純に揚力が急激に減少した瞬間が失速だと定義出来ます。
実際は、機体の重量を支えられなくなる瞬間を失速と呼んでいますので、翼が臨界迎え角に到達する前(機体重量が支えられなくなった瞬間)に発生しています。
あらゆる飛行状態に適合させるために
航空機の運航中、最も低速になるのは、離陸および着陸です。
低速となった場合でも、機首を上げて迎え角を増やしてあげれば、飛行できます。
でも、胴体の長い大型旅客機の場合、尻餅(テール・ヒット:Tail Hit)するかもしれませんので、機首上げには限界があります。
このため、低速度で飛行させる必要がある場合は、迎え角を極端に大きくしないでも、機首上げを行った状態と同じような効果を得られるようにしなければいけません。
この効果を狙った物が、高揚力装置(フラップ:Flap)と呼ばれるものです。
フラップには色々な種類がありますが、最も単純で多くの航空機に利用されているのは、「単純フラップ」と呼ばれる物です。
翼の後縁側を下向きに曲げることによって、理論的に翼の厚み(キャンバー:Camber)を大きくして、大きな揚力を得る方法です。
ただし、これは前面投影面積(前から見たときの相対面積)がとても大きくなるため、大きな抵抗(抗力)も生じます。
このため、抗力に負けないように、より大きな推力(Thrust:スラスト:エンジン出力)が必要になります。
常に迎え角を気にして飛行しているのか
一般的には、パイロットが迎え角を気にして飛行することはありません。
通常利用している飛行範囲では、迎え角を超えることがないためです。
ただ、離陸や着陸では、「機首上げは何度まで。」といった制限が付けられていることが普通ですので、そういったある一部では姿勢を気にして飛行している事になります。
航空機の姿勢や運動を制御するコンピューターにとっては、AOAは非常に重要なデータですので、AOAを計測するセンサーが機首部についており、常に航空機のAOAをコンピューターに送っています。
戦闘機は
戦闘機の場合、空中戦闘等で相手の後ろに回り込む必要性から、より小さな旋回半径を求められます。
言い換えると、より高いG(Gravity:重力加速度)をかけて旋回飛行を行いますが、この際に翼の臨界迎え角を超えることがあるのです。
これは、機体が旋回する際に遠心力によって機体の航跡が旋回外側に膨らむことによります。
膨らむことによって、機体の進行方向よりも下方から空気流を受けることになり、迎え角が大きくなるのです。
これにより発生する失速を、「Back Pressure Stall:(Stall:失速)」と呼んでいます。
※ 加速失速(Accelerate Stall)と呼ばれることもあります。高速失速ともいう。
F-15Jの場合、迎え角を指示する計器として、「AOAインジケーター」と呼ばれる飛行計器が搭載されています。
「何度」という表示ではなく、「UNIT:ユニット」と呼ばれる単位で指示され、パイロットは失速を示す数値を超えないように、機体をコントロールしています。
F-15ではAOA計はついていますが、実際の戦闘機動で見ることはまれなんです。
というのは、失速に入る前後には機体がイヤイヤするような挙動、風きり音の変化、操縦感覚の変化といった各種の挙動があります。
パイロットはそういった、「航空機からの信号」を五感で感じ取り、操縦にフィード・バックしています。