質問1:「戦闘機は離陸後どうしてハイレートクライムを行うのですか?」
全ての戦闘機がハイレートクライムを行うわけではないのです。
そもそもハイレートクライムというのは、「課目」のひとつなのです。

なぜ、課目として行うかというのは推測になりますが、F-15Jに代表される高推力をもつ航空機の場合、A/B(After Burner:アフター・バーナー)を使用して離陸すると、速度の増加率が大きくなります。
そのため、適切な上昇速度をオーバーすることになります。
A/Bを使用した上昇は、MIL(Military:ミリタリー)上昇と速度が異なります。
これは、「最大上昇率速度:Vy」が異なるためです。
MIL上昇でも充分な余裕がある機体諸元(重量や外装品)であっても、A/B上昇を行うのは、「より早く高度を獲得したい。」という意味があります。
そのため、速度に応じた「最も上昇率の良い機首上げ角度」を確保することが大事になり、その練習を行っているのです。
ちなみに・・
F-15Jのハイレートクライムの手順は以下のようになります。
- 離陸滑走前に、左右のA/Bのチェック(ノズルがOPENすることを確認します。)
- 80%推力までスロットルを進めます。
- ブレーキ・リリース
- スロットルをMIL推力まで上げます。
- その後、A/Bレンジ(min A/Bレンジ)に入れて、ノズルのOPENを確認します。
- そして、Full A/Bレンジへと進めます。
- 100kt~120ktで機種を引き上げて、そのまま浮揚
- 浮揚確認後、すぐに脚とフラップを上げます。
- 350kt前後で40°ピッチまで引き起こします。
ここで、「あれ?」と思った方も多いかと思います。
航空祭等で見せている、ハイレートクライムより明らかにピッチが低いですよね。
航空祭で見せているハイレートクライムは、まさに見せるためのハイレートクライムなのです。
課目の場合は最大40度ピッチなのです。
では、ここで見せるためのハイレートクライムの手順
- 8番までは通常と同じです。
- 脚フラップを上げた後は、すぐに機体を水平飛行に移して、そのまま加速します。
- 400ktくらいまで加速したところで、80°~90°ピッチまで引き起こします。
これが、皆さんに見せるハイレートクライムです。
人によっては、450kt近くまで引っ張る人もいますが、少なくとも滑走路末端を通過する前に引き起こしを完了する必要があります。(暗黙の了解なのです。)
水平加速を引っ張りすぎると、遷音速(MACH0.8以降)でも、部分的に衝撃波が発生しますので、やりすぎには気をつけないといけません。
でも、ついつい引っ張ってしまうんですよね・・・。
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質問2:「ハイレートクライムする際に、 ある程度上昇した後、180度横転して、マイナスGをプラスGに変える機動をよくみかけるのですが、時によって 180度回転し終わる前に水平飛行に戻る場合があるのですが、あれは 進路によって変更しているのですか?!」
はい、まさにその通りです。
ただ、ハイレートクライム間はそこからの回復(レベル・オフ)も含めて、マイナスGになることはありません。
通常のハイレートの場合は、ピッチが40°と低いために、プッシュ・オーバー(操縦桿を前方に押すこと)による、レベル・オフ(水平飛行にすること)ができます。
ところが、航空祭用のハイレートだと、ピッチは80°~90°になりますので、プッシュ・オーバーでは、機体にマイナスGがかかります。(かからないようにしてもいいけど、水平飛行状態までに時間がかかる。)
このため、垂直に近い状態のまま、エルロンを使用してロールを行い、旋回終了方向が自分の背後(頭の上)に来たところで、そのまま操縦桿を引いてレベルオフします。
すると、背面状態で所望の方位になりますので、そこで再度、エルロンロールを180°行うことにより、水平飛行に戻すことが出来ます。
航空祭の場合は、そのまま背面からさらに機首を下げて、飛行場に降下を始めるような場合もあります。(その時の科目構成によります。)
魅せるハイレートで上昇中に、後ろを振り向くと、
さっき離陸した飛行場滑走路を衛星写真のように真上から見ることが出来ます。
私は、初めてその景色を見たときに、
「あぁ・・・F-15Jにのってるんだ」
と思いました。
ちなみに、通常の燃料搭載状態(センタータンク1本+パイロン2本)だと、それほど高い高度までは上がれません。
航空祭で見せる時は、わざと燃料を少なめにして、機体重量を軽くして行っています。
燃料が少ない機動飛行なのか、通常なのかは、見慣れると分かってきますよ。