F-15Jエンジンの排気温度

戦闘機のジェットエンジンの排気温度ってどれくらいなのでしょうか。

実はこれにはいくつかの考え方があります。

一般的なエアラインの航空機ですと排気温度は低く抑えられます。

これは、

外気温度と差があるほど騒音が大きくなるからです。

ジェットエンジンの音は好きな人には、たまらない魅力だとは思いますが、近隣の住民さんにとっては騒音です。

そもそも、ジェットエンジンの音というのはなんなのでしょうか。

これは、エンジン内部が回転することにより発生するファンやタービンの風切り音や内部駆動音などが上げられますが、最も大きいのは排気時の音です。

じつはこれ、排気ガスと外気温の差によって発生しているのです。

ジェットエンジンの排気は数百度になります。それに対して外気温度は20度とか30度とか。

数百度の排気ガスが、外気にさらされると、急激に膨張します。

この膨張時に音が発生するのです。

言い換えれば、外気温度との差が大きいほど、発生する音が大きい。といえます。

ですので、エアラインの航空機用エンジンはターボファンが多い。

ロールス・ロイス社 Trent1000断面図 B-787シリーズに採用
ロールス・ロイス社 Trent1000断面図
B-787シリーズに採用

ターボファンのジェットエンジンというのは、吸入側第1タービンファンを通過した空気の一部を、燃焼室に送らずにバイパスして、排気ノズルに送る方式です。

バイパスとも言われています。

この方式にすることにより、燃焼した高温高圧の排気の周りを温度圧力ともに低い空気で覆いつつ排気することが出来ます。

これにより、燃焼した高温高圧の排気ガスが急激に膨張することを防ぎ、結果として音が抑えられます。

エアライン機のエンジンをぜひ正面から見てみてください。恐らくエンジン内部の外周部は後ろの景色が見えるはずです。

つまりバイパスエンジンとも言えます。

しかし、これには欠点もあります。

一般的に、ジェットエンジンの推力というのは、排気ガスの温度に比例します。

最近は技術の進歩で、低い温度でも充分な推力を得られるようになりましたが・・・。

となると、戦闘機のエンジンはどうでしょうか。

騒音よりも出力が重要視されることになります。

結果的に、高い排気温度、高い排気圧力になるようにエンジンを構成することになります。

ただ、やみくもに高温高圧にすると、エンジンそのものの構造や材質に求められる性能が厳しくなってきますので、バランスのとれたところで決定します。

F-15Jのエンジンは石川島播磨重工業製のF-100シリーズになりますが、単純なターボジェット(バイパスのないエンジン)ではなく、ターボファンエンジン(バイパスのあるエンジン)です。

石川島播磨社 F-100シリーズ断面図
石川島播磨重工 F-100シリーズ断面図

ただ、画像のとおり、バイパス比はエアライン機のエンジンとは比べものにならないくらい小さいものになります。

さて、単純に戦闘機のエンジンは高出力であればいいのでしょうか。

答えはNoです。

その機体を使う側から言うと、高出力なエンジンは扱いが非常に難しくなり、燃費も悪くなります。

飛行機が飛行するというのは、低出力から高出力までスムーズに利用出来る必要があります。

でも、通常出力だけでは、機体の性能を引き出せない。音速で飛行する必要がある。などの理由で考えられたのがアフターバーナーです。

F-100のアフターバーナー
F-100のアフターバーナー

これは、燃焼ガスにさらに燃料を投入して再度燃焼させることにより、莫大な推力を得る方法です。

これにより、ジェット排気の速度は音速を超えることになり、航空機そのものを音速まで引っ張ることになりました。

ただ、音速そのものが現代の戦闘で必要かという点については、グレーです。(個人的な考えですが。)

さて、F-15Jのエンジン排気温度はどれくらいなのでしょうか。

F-15Jのエンジン計器類の中にFTIT計というのがあります。

FTITとは、”Fan Turbine Inlet Temperature”のことで、ファンタービン入口温度計です。

通常の運用範囲は1,000℃以下となりますが、普段でも900度は普通に超えます。

過去に一度だけ、1,000℃を超えた機体を見たことがあります。

対戦闘機戦闘訓練を行っているときに、旋回している機体から、白い煙がすーっと。

あれ?と思ったのもつかの間、すぐに戦闘中止の無線が入り、当該機は該当するエンジンをカット。

温度が1,000℃を超えたそうです。

同じ編隊の機体でしたので、後方に入ってエンジンを確認すると・・・・真っ赤に溶けている。

そう、まるで製鉄所の溶鉱炉のような状態になっていました。

再始動できるような状態ではないので、片エンジンは切ったまま帰投、無事に着陸しました。

F-15Jのエンジンは、チタン合金等を贅沢に使用した、とても高価(約10億円)なエンジンです。

でも、1,000℃には耐えられないのです。

音と推力、高温高圧とエンジンの素材、そしてハンドリング、色々な要素によってエンジン性能は決まっているのです。


3件のコメント

  1. 貴重なお話し、とても興味深く読ませて頂きました。
    一つ疑問に思ったのですが、FTITが排気温度に相当するのでしょうか?
    通常、インレットは吸入をさすので排気ならエキゾーストなのではと思いました。

    1. FTITは、Fan Turbine Inlet Temperatureの略です。Turbine Inletなので、エンジン最終段にあるタービンへの入口温度になります。
      最終的な排気温度はセンサーがないので計測していないのです。

      1. ありがとうございます。
        なるほどですね。
        そうなると、先日話題になったX-2のエンジンIHI XF5-1はタービン入口1600°となっていましたので、かなり進化したのですね。

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